少し五度圏の図を振り返ってみましょう。原調(基準となる調)の平行調(音階の構成音が同じ調)を知るには五度圏の図の(同じ調号の数を持つ)外円と内円を参照しました(言葉を変えますと、基音から短三度上下すれば平行調が分かります)。
そうです、CメジャーとAマイナーが平行調でしたね。そして五度圏の図を右に回ることで属調を、左回りで下属調を確認できました。それらの調に、同主調(同じ主音をもつ調:CメジャーであればCマイナー、AマイナーであればAメジャー)を加えたものを、楽典の世界では近親調と呼んでいます。
平行調、属調、属調の平行調、下属調、下属調の平行調、同主調が近親調に該当しますが、参考書によっては記述がマチマチで下図のような同主調の平行調を近親調に含めているケースもあります。
同主調の平行調へ転調する楽曲もよく見かけますので覚えておきましょう。
五度圏の図を見ると平行調の同主調が正反対の位置にあることが分かります。
またこれら以外の調を(原調の)遠隔調と呼びますが、編曲においては原調と全く無縁の調というわけではありません。例えば遠隔調への転調は、近親調への転調のような滑らかさはありませんが、その分意外性は強まりますので様々な使われ方も考えられます。
転調は調性や和音展開を考慮しながら楽曲の表情を変えていく仕掛けですので、和声学に属する作曲技法とも言えるかもしれません。転調に関してはセクションを分かたず様々なページで関連事項を紹介していきたいと思いますが、ここではその基本について簡単にふれてみましょう。
近親調のうちでは、やはり属調への転調が一番スムーズであり基本と言えます。五度圏を右周りに転回していく方法です。各調のドミナント(属和音)を橋として転調していきます。(あくまで一例ですが、基調をCメジャーとした場合は、CメジャーからGメジャー、GメジャーからDメジャー、DメジャーからAメジャーへと転調していきます。)
何となくお分かりいただけたでしょうか。この転調のケースでは、前の調のドミナントが新しい調のトニックになるという点が重要です。ドミナントはあくまで橋(連結部)の役目であり、その途上ではサブドミナント(S)に該当するコードや、ドッペル・ドミナント(DD:詳細は後述)などを用いてしっかりと道を作り、曲を構成していきます。(図中のTはトニック(主和音)、Sはサブドミナント(下属和音)、Dはドミナント(属和音)を表していますが、主要三和音や簡単な進行・終止形(カデンツ)が分からない方は和声学のページを参照してください。)橋の連結時の動きであるドミナント・モーションを含めた転調方法の詳細は後ほど解説していきます。(転調時のピボットコードの一例のページはこちら)
ロンド形式における転調を下図に示します。ここでも冒頭で紹介した近親調への転調が見られます。AとBパートの違いを生み出すためにAパート内で属調への転調が行われ、さらにAとBパートの連結部において、平行調であるイ短調へ転調することによりコントラストを明確にしています。
ロンド形式における転調
転調の種類やテクニックはこの他にも様々です。交響曲にも登場するソナタ形式でも同様の転調が用いられます。ポップスの世界ですと、カラオケでもご存知のように、ボーカルのかたの特性に合わせた調の設定や転調が見られます。古典音楽の曲名には調性が併記されますが、楽器演奏者への配慮でもあるのです。シャープやフラットが4つ以上になると楽器によってはよく鳴らない音も出てきます。このようなことから、単に曲の雰囲気を変えようと、何も考えずに転調を行うものではありません。声楽、器楽の特徴を知ること、転調後も旋律や和声に気を使うことが大切になってくるでしょう。次頁ではソナタ形式と転調についても紹介しています。(転調時のピボットコードの一例のページはこちら)