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実践基礎:スケール編

:まとめのお話

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総括1 ~侘びと寂とアドリブ~

実践基礎:スケール編の第8回目はここまでの総括です。第7回目まで学習してある程度スケールに関する考え方は深まったと思います。スケール講座ですので基本もステップアップも無い気もしますが、とりあえずここで理解度というか考え方の確認をしてみたいと思います。

そもそもスケールを学ぶことの意義はどこにあるのでしょう。第一にその構成音を拡大解釈して和声に結び付けることが出来ます。それとは逆に和声からスケールを導き出してそれを旋律的、装飾的に用いる方法が第二です。さらに演奏家が即興的な演奏力を身につける助けにするというのが第三。第二と第三の間には前回お話しした、各声部への配置の発想を得るなど、独自の和声感を養うことができるという利点もあります。

実践基礎:スケール編の冒頭で三国志に貫かれる諧調の話をしましたが、三国志の世界には「七歩の才」という故事がありました。三国志の主役の一人である曹操が没すると、後を継いだ曹丕が権力争いのさなか、その実の弟である(むしろ曹操の寵愛を受けていた)曹植に罪を被せんとして、即興で詩を作れと命じるのです。その時弟は七歩歩く間に兄弟が相争う悲しい状況を詩にたくし、国王の怒りや疑いをすべて涙に変えてしまったのです。演奏家を目指すなら、この曹植や後述の楊修のように、短い時間でアドリブを展開しなくてはなりません。私たち作曲家サイドの人間からすると、たくさんのスケールを覚えることもあくまで"装飾"的に捉えていますが、作曲家と演奏家では身につけるべきことに若干の相違がありますので、目指す道によって学問の方向性も少し変わってくるのではないでしょうか。

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スケール感と芸術性

父である曹操はある時、気晴らしのための庭園を作らせたのですが、完成後の視察を終えるや、門に「活」という字を書くのみで、無言のうちに去っていってしまいました。はてな?と工夫たちが困り果てていると、曹植の先生でもあるアドリブ名人の楊修という人物が、「門に活と書けば闊(ひろい)」となると種明かしをしてくれました。なるほどと工夫たちが"こじんまり"と造り直したところ、曹操は大いに喜んだそうです。

私も最近の音楽を聴いていると曹操と同じような気持ちになることが多々あります。スケールを装飾的に使うとそれだけ空間ができ、それこそ違う意味の"スケール"が発生します。いわば密度が減少するという感じでしょうか。音楽も全世代を含みこんだ"文化"でしょうから、その表現手法もバラエティに富んだものともなりましょうが、空間に対しての内容が乏しいように思えます。たとえば古典派のハイドンのように、三和音を振り分け繋いでいくだけのシンプルな構築法にすれば、スケール感はともかく質は剛くなります。

曹操は統一国家の基礎となるような版図を手にし、酔いしれるほどの贅を味わい、忠臣の誡めをはね返すようにもなりましたが、どこまでも侘び・寂びの部分には感性が反応したのですね。映画音楽は作れるけど弦楽四重奏曲は作れないですとか、現代アートやってるけどセザンヌは分かりませんとか、構成美すなわち侘び・寂びへの理解が足りない人は、昔だったらピシャリとやられて下手すれば獄中に・・・と言うと大げさですが、今のヌルヌル感は若者たちに健全な精神的高揚は与えてくれないのではとも思います。

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古典派は大要塞

このページでは三国志のアドリブにまつわる話をしましたが、三国志の中では、天下無双の豪傑・呂布と悪の権化ともいうべき董卓が貂蝉という女性を巡って心理戦を繰り広げるあたりに一番熱中しました。漫画やドラマではふーんという感じでしたが、呂布という偉大夫の内なる煩悶の部分が、文字によって映像作品の数十倍もの臨場感を得ているというあたりは作曲家として学ぶべきところかなと思います。

それでは最後に「虎牢関」という自作曲(short.ver)をお聴き下さい。

この曲は中国の音階名でいえば夷則均商調になりますが、楽理的には書籍内で説明しましょう。三国志に登場する「虎牢関」は都への進路を遮断する要塞です。このサイトのテーマでもある古典派の和音やロマン派の音世界もまた、巷のパターン音楽とは違い、そびえたつ大要塞ですね。策が通じなければひたすら攻める(勉強・練習する)。学んだら和声・旋律・リズムで陣形を組み、大要塞攻略の足がかりとするのです。

とにかく三国志の登場人物は、これはもう教養たっぷりで、ライバルだらけ。コピペ・盗用(生兵法)なんて通用しませんし、逆にカウンターを喰らい窮地に追い込まれてしまいます。今の世が楽だとは言えませんが、流行に惑わず"本質を看破する"作曲家として実践を重ねていきましょう。

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