第63夜は、フランツ・リストのHarmonies poetiques et religieuses(詩的で宗教的な調べ:完成は1853年。)からBenediction de Dieu dans la solitude(孤独の中の神の祝福)を紹介します。
生年月日 | 1811/10/22 |
---|
ではこの素晴らしい曲をお聴きください。
リストは1811年にこの世に生を受けましたが、ショパンが1810年、ワーグナーとヴェルディが1813年誕生ですから、随分と濃密な3年間ですね。
リストといえば当時のアイドル。今でこそ、ピアニストのソロコンサートなんていうことも珍しくありませんが、当時は他のアーティストの助けを借りない、いわゆる「独演」というスタイルは未開・未知のものでした。(起源はイギリスの作曲家でありバイオリニストのジョン・バニスターが1672年に行ったもの、なんていうトリビアもあります)。今夜はその音楽性についてではなく、ソロ・リサイタルという形式についてスポットライトを当ててみましょう。
リストが1839年にベルジョホソ(Princess Belgiojoso:当時各方面にかなりの影響力があった女性活動家で、有名なリストとタールベルクのピアノの決闘は1837年3月31日に彼女のサロンで行われました)に送った書簡には以下のような内容がしたためられていました。
「ローマの人たちを満足させるために考案したこれらの
退屈な音楽のsoliloquy(独白)を、今度はパリに持ち込もうかというところですから、私のずうずうしさも、もはや限りを知らない感じになりますね。
ああ、戦いに疲れて、良識あるコンサートプログラムをまとめることができなくなってしまったのでしょうか。
私は思い切ってすべて独力でコンサートを行うことに挑戦して、皆に(ルイ14世のような感動を呼ぶスタイルで)「私こそコンサートだ!」と宣言しました。
好奇心旺盛なあなたのために、その独り言のプログラムのうちのひとつをコピーします。」
以下プログラムの内容が続きますが、1曲目のクレジットにM.Lisztと書き、2曲目以降は「同じ名前」と記しています。独演会という当時とても珍しい形態でのコンサートを続々と行うことができた、時代を風靡するピアニスト(アイドル)としての矜持を窺い知ることができます。(曲目は1:ウィリアムテル、2:清教徒、3:練習曲と断章、4:インプロビゼーション、まで記されていました。1、2共に有名曲ですが、当時はまだ10年以内に作られた新しい曲の部類でした)
リサイタルという言葉も当時はまだ使用されていなかったようで、1840年に開かれたコンサートの広告に初めて「LISTZ'S PIANOFORTE RECITALS」と銘打たれたときは「ピアノに向かって何をブツブツ(recite:朗読)やるんだ」というふうに受け止められてしまったそうです(笑)。
今夜紹介した曲Benediction de Dieu dans la solitude(孤独の中の神の祝福)は、そのアイドル時代からおよそ15年後に完成されたものでしたが、もはやアイドルの作る楽曲というレベルではないですね。非常に聴き応えのある楽曲です。メタルの夜が続いていましたので癒しの曲をチョイスしてみました。
ではまたいつの夜にかリストの曲は紹介しましょう。